今回より、児童発達支援・放課後等デイサービス等の現場で働く方々の言葉を届ける新シリーズ「療育のひと」を始めます。連載第1回目は「児童発達支援管理責任者(児発管)」として5年目を迎える井上智里さんにお話をうかがいました。
ー井上さんは営業職などの異業種から保育士資格を取得し、療育の世界へ入られたとうかがいました。さまざまな選択肢がある中で、なぜ療育の道を選ばれたのでしょうか。
実は、最初は保育園で働こうと思って保育士の資格を取ったんです。ところが、いざ実習で保育園や幼稚園に行ってみると「なんか違うな」と感じてしまって(笑)。自分には向いていないのかもしれないと悩んでいた時に、障がいのある方たちが働く就労支援の事業所へ実習に行く機会がありました。そこがすごく楽しかったんです。
何が楽しかったかと言うと、「考えること」がすごく楽しかったんですよね。利用者さんがなぜこういう行動をするのか、なぜこの言葉を発するのか。ご本人に聞いても答えが返ってこないことも多いですが、こちらが見立てを立ててアクションを起こしてみる。それが正解だったらニコニコしてくれるし、違ったら怒られる。一人ひとりの反応が明確で、手応えを感じやすいところがあって、そこを読み解くのがすごく楽しかったんです。
その後、放課後等デイサービスの世界に入り、障がいのある子どもたちと関わる中で「やっぱりこっちに行こう」と思ってキャリアを重ねてきました。
ーそこからさらに、現場の支援員ではなく「児発管」を目指そうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
大きな理由としては、やはり「その子に合った療育」を自分で計画できることに魅力を感じたからです。個別支援計画を作成して、職員やお母さん、そして子ども本人に「こういう支援をしていこう」と提示できるのは、児発管ならではの役割ですから。
それと同時に、現場で働いているときに、個別支援計画について「もっとこうしたらいいのに」ともどかしさを感じることが多かったんです。
ー具体的にどのような場面でもどかしさを感じていらっしゃったのでしょうか。
例えば、全員が同じような内容だったり、テンプレートのような文言が並んでいたりして、「本当にその子に合っているのかな?」と疑問に思う計画を目にすることがありました。「この子にはこれはいらないんじゃないか」とか、「この子にはこれはまだ早いよね」とか。それを見ていて、「私だったら、もっとその子に寄り添った計画が書けるのに」という思いが強くなっていきました。
ただ形を整えるだけの書類にするのではなく、私ならこう書くのにという思いがあったこと。 それが、児発管を目指すきっかけのひとつになりました。

ー井上さんが児発管として働く上で、もっとも大切にされていることは何ですか。
「その子を見る」ということですね。保護者の方がおっしゃる困り感や「いいところ」だけではなく、支援者である私が直接その子を見て、「あ、この子ってこういうところがすごいよね」というところを見つけることを大事にしています。
以前、家庭環境が複雑で、ネグレクト気味のお子さんを担当したことがありました。少しこだわりが強く出るお子さんだったんですが、よく観察してみると絵がすごく上手で、手先がとても器用だったんです。
その子の「強み」の部分を活かそうと思い、個別支援計画に編み物などの創作活動を組み込みました。「ママのためにつくる」と言って、一生懸命取り組んでくれて。
ーその子の得意なことを伸ばす支援をされたのですね。
完成した作品をお母さんにプレゼントしたとき、普段はそっけない対応が多いお母さんが、すごくニコニコしてその子を私の前で初めて褒めてくれたんですね。「ありがとう」って、その子に向かって言ってくれて。
子どもにとっても、久しぶりに聞いたお母さんからの「ありがとう」だったんだと思います。すごく嬉しそうで、「次は妹につくる!」と意欲がどんどん湧いてきて。その子の強みの部分を活かせたなと思いました。子どもはお母さんに甘えられるようになったし、お母さんも甘えられるのを嫌がらなくなって、関係性がだんだんよくなったんです。
お母さんたちから直接「ありがとうございます」と言われるよりも、「これができるようになったね!」と子どもの成長を一緒に喜べる瞬間が、この仕事のやりがいだと感じています。
ーやりがいがある一方で、児発管は現場と経営の間に立つ難しいポジションでもあります。井上さんはその難しさをどう乗り越えていらっしゃいますか。
そうですね、よく「児発管は孤独だよね」と仲間内でも話すんですが、本当にその通りだと思います。一番大変なのは、やはり経営者と現場職員との「考え方の違い」をまとめることです。
最近は福祉分野以外からの参入も増えているので、経営側はどうしても「数字」や「利益」を優先した話をされます。一方で、現場の職員はずっと福祉をやってきた人たちなので、考え方が違うんです。どちらの言い分もわかる。だからこそ、どう言葉にするかというところはすごく意識しています。
ー孤独を感じやすい立場の中で、ご自身のメンタルケアはどのようにされているのでしょうか。
私の場合は、SNSの存在が大きいですね。職場の中ではひとりかもしれませんが、SNSで発信して、いろんな児発管とつながることができます。
遠く離れていても同じ思想を持った人たち、同じ辛さを知っている人たちと、ZoomやXのスペースなどで話す時間はすごく救いになります。「わかってくれる人がいる」という場所をつくるためには、SNSはすごくよかったなと思います。

ー最後に、これから児発管を目指す方や、キャリアに悩んでいる方へメッセージをお願いします。
児発管を目指すなら、「会社に言われたから」ではなく、「自分がなりたい」と思ったときになってほしいですね。
今の制度だと、実務経験があればOJTが終わる前に「みなし児発管」として児発管の業務を担当することになるケースもあります。でも、何もわからないのになってしまっては、自分が不安になると思うんです。個別支援計画の書き方もよく分からないまま書き始めて、書類仕事も多いので子どもとも関われなくなって……。それが嫌になって辞めていく方も結構いらっしゃいます。
残念ながら今の業界には、運営指導を通り抜けるためだけの形骸化した計画書も少なくありません。監査員の方もすべての中身をじっくり読んで評価してくれるわけではありませんから、「書いてあればいいや」と適当になってしまうこともあるかもしれません。
でも、私たちは運営指導に向けて仕事をしているわけではありません。子どものために、親のためにと思ってやっています。
ーご自身が「書きたい」と思って児発管になられたように、主体的な選択が大切なんですね。
そうですね。自分のこれまでの経験や知識を総動員して、「この子のときはこうやっていたけど……」と思い出しながら知識の引き出しを引っ張り出す。
そうやって書き上げたとき、そしてそれを保護者の方に見せて「支援内容が素晴らしいです」「やっぱりこれでやっていただきたいです」と言っていただけたときの喜び。これは、何ものにも代えがたい感動があると思います。
大変なことも多い仕事ですが、自分の思いで「書きたい」「頑張りたい」と思ったときに、ぜひチャレンジしてほしいなと思います。

(撮影:櫻林栄吉、文・編集:コドモン編集部)
井上さんが所属している団体
団体名:保育×発達支援×子育てコミュニティ ぴーす
※2026年1月21日時点の情報です
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